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「mishi」ーパキスタン・ラカポシB・C

by 清水久美子

フンザのゲストハウスに到着した日、隣の部屋でチェックアウトしていたのがミッシーだった。「良い旅を」とだけ挨拶をして別れた。

初めて会うはずなのになんだか前から知っているような感覚を味わう人がいる。

ミッシーもそんな一人だった。

もう一度どこかで会えるような気がしていたら、そのときはすぐにやって来た。レストランでご飯を食べてホテルに戻ると、ホテルの屋上にミッシーがいた。あれ、どうしたのと聞くと、ストライキがあって行きたい町に行けなかったから戻ってきたとのことだった。(パキスタンにいるとこのストライキによく悩まされる。わたしが日本に帰国する日もストライキがあって空港までの道路が封鎖されて焦った。今日帰らないと困るから空港まで連れて行って欲しいとタクシーの運転手にお願いしてもみんな諦めろと言う。騒ぎまくっていたら近くにいた人が、最終兵器っぽいじいちゃんを連れてきてくれた。このベテラン運転手のじいちゃんが抜け道で空港まで連れて行ってくれて無事日本に帰れた。じいちゃん、かっこよかった。)

非常に困るストライキだけど、この時ばかりはおかげでまたミッシーと再会できた。温泉の湧く村へ行くところだとつげると、彼も予定がなくなってしまったから行くという。

乗り合いの車で温泉の湧く村へ向かう。車内は大抵混雑していて体制が苦しい。羊やヤギなどの動物が乗っていて獣臭漂うときも多々ある。そんなとき、車の上に乗るという裏技をミッシーに教えてもらった。強い日差し、砂埃やガタガタ道、、注意も必要だけど息がつまるような密閉空間より断然気持ちがいい。この日から一人の時ももっぱら車の上を希望するようになった。

彼は日本に少しだけ住んでいたことがあるらしく、つたない英語を話すわたしに日本の単語を思い出し、交えながら話してくれた。

温泉は想像以上にしょぼかったけれど楽しい道中だった。

翌日、一緒にラカポシB・Cまでトレッキングに行くことになった。

B・Cで一泊する人も多いらしいが、わたしたちは早朝に出発して夕方に戻るよう、計画を立てた。

だいぶざっくりと書かれた地図を頼りに、出発。

ミッシーは先を歩きつつも、わたしの姿が見える間隔を保って歩き、よく振り返りわたしを確認していた。このベースキャンプで襲われた女性がいたことを彼は知っていて、わたしを一人にしないように気にかけてくれていたのだ。パキスタンで警察や軍人が女性をレイプして殺し、死体を捨ててもみ消すという事件をわたしも何度か耳にしていた。

一人では決して来なかっただろう場所。こんな壮大な景色も見られなかった。

宿に戻りまどろんでいると、聞き覚えのある曲が彼のiPodから流れてきた。

それはわたしが子供のころから大好きで特別な想いを持っていたケルトの音楽だった。

彼はこの曲を聴くと懐かしい気持になって心が落ち着くんだと言った。

わたしも同じだったけど、うまく言葉にはならなかった。

色とか温度とか香りとか音とか、すべてのものが完璧に美しい瞬間がたまにあって、そんなとき、生きてる喜びにそっと手を合わせたくなる。

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