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「陽気なお墓」 ールーマニア・マラムレシュ地方

by 清水久美子

ブルガリアから抜けて、ルーマニアにやってきた。

首都であるブカレストはなんだか薄暗いし、虚ろな目でシンナーを吸っている人もいるしで、どうも落ち着かなかった。手頃なホテルもなかなか見つからず、荷物を引きづりながらビクビクと町を彷徨う。一息つこうと目の前にあったマクドナルドに入ってみる。日本でも入ることなんてないのに、少しでも知っているお店に入りたいほど不安な気持ちだった。レジには行列ができていて、おいしいのかもしれないと期待してオーダーしたサラダもポテトもびっくりするくらいまずくて泣きそうになった。

その後、気を取り直してなんとか見つけたホテルの従業員はひどく無愛想だった。

翌日の朝、さっさとお目当のマラムレシュ地方へ行くことにした。

マラムレシュ地方はウクライナとの国境、ルーマニア北部の最奥地に位置している。みやこうせいさんの写真集を見て、行ってみたいなと思っていた。昔ながらのルーマニアの風習や文化が息づき、村人は普段から民族衣装に身を包み、昔と変わらない暮らしをしながら過ごしているという。

ブカレストからマラムレシュ地方の基点となる町、シゲット・マルマツィエイは400キロ以上離れていて、15時間ほど電車にガタゴト揺られながら向かう。

マルマツィエイで一泊し情報を集める。陽気なお墓というユニークな観光名所があるという、サプンツァ村に滞在することを決めた。

「死は今まで生きてきた事の喜びに満ちた最高の瞬間である。」 

木彫職人だったスタン・イオン・パトラッシュ氏が、1935年に墓碑に生前の生活や職業、趣味などを刻んで色をつけ、故人をしのんだのが始まりだそうだ。なかには雷に打たれたなどの死因が描かれていることもありドキッとさせられる。良かったことも悪かったこともひっくるめてありのままの人生を描き、陽気に笑ってその人の死を弔う。大切な人を失った人たちの悲しみが少しでも癒えるようにとの願いが込められている。

現在はパトラッシュさんの意向を継いだお弟子さん達が墓碑の修復を行い、そして同じように墓碑を刻んでいる。

日曜日になるとミサが開かれ、この場所で人々は思い思いに時間を過ごしている。

村人の信念、文化にまで繋がっていったこのお墓。本物の芸術ってこういうものなのかもしれないなと思う。

素朴で慎ましい生活の中に、東欧唯一のラテン系国家であるその血を感じさせられる村だった。陽気な人々と文化に触れ、冷え気味だったわたしの心はすっかりあたたまった。

ブカレストのホテルに戻り、愛想の悪い従業員に笑顔でただいまと言った。

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